vol.4 歴史に選ばれた発酵菌 ー 黒麹菌

 このコラムの第1回目(なぜ沖縄は健康素材王国なのか?)で、沖縄が多様な健康素材に恵まれている理由として、独特な自然環境と琉球の歴史が深くかかわっていることをあげました。まさに、沖縄の亜熱帯性気候と琉球王朝の歴史により選び抜かれてきた微生物が、泡盛醸造に利用される“黒麹菌”です。黒い胞子をつける麹菌というカビの一種で、学名はアスペルギルス・リューチューエンシス。「リューチュー」とは琉球のことです。

 泡盛の蒸留技術は、中世ヨーロッパが源流と言われています。そこで発明された蒸留器が世界中に広がり、14世紀後半にタイから琉球に伝わったとみられています。そして、泡盛の原料として伝統的に用いられて来たのはタイ産米。大交易によって琉球に生まれたお酒が泡盛だと言えます。

歴史に選ばれた発酵菌 黒麹菌

黒麹菌が培養された米麹
写真提供:株式会社石川酒造場

 日本で清酒や味噌をつくるために用いられる黄麹菌と琉球の黒麹菌の決定的な違いは、黒麹菌が多量の“クエン酸”という有機酸を作り出すことです。クエン酸は柑橘果実の酸っぱさのもとになっている成分ですが、黒麹菌もこのクエン酸をつくるのです。
 それには理由があります。お酒づくりの発酵を年中温暖な琉球で行うことは、気温の高さによる雑菌汚染の危険にさらされることでもあります。そうした中で、先人の試行錯誤によって選び抜かれてきたのが、クエン酸をつくるという特徴をもった黒麹菌。クエン酸には雑菌の増殖を抑える抗菌力があるのです。
 しかし、黒麹菌がつくったクエン酸は泡盛には含まれません。もろみを蒸留して泡盛が得られた後に残る泡盛蒸留粕の中に濃縮されて留まります。同じように発酵によってつくられたアミノ酸も泡盛蒸留粕の方に留まります。これを搾って得られるのが、沖縄定番の健康飲料「琉球もろみ酢」です。
 実はクエン酸は人間の体内でもつくられます。エネルギー源としてご飯やパン、甘いものなどを食べると、その糖分が体の中で分解されてクエン酸になります。このクエン酸がエネルギーを生み出す一連の酵素反応(TCA回路)の出発物質なのです。クエン酸を多量に含む琉球もろみ酢がスポーツの後や疲れを感じるときによく愛飲されるのは、そのためだろうと思われます。でんぷんや糖分を摂取するより、ショートカットでクエン酸を摂取できるという利点が琉球もろみ酢にはあります。クエン酸はエネルギー源にはなりますが、腸から血中に吸収されても血糖にはなりません。

 多くのリピーターに愛されている琉球もろみ酢は、歴史に選び抜かれた黒麹菌を活かした、沖縄ならではの発酵食品です。

(一社) 沖縄県健康産業協議会 専門コーディネーター 照屋 隆司(日本臨床栄養協会認定 NR・サプリメントアドバイザー/農学修士)